井戸を掘った人のことを忘れない。「飲水思源」という、中国のことわざです。中国人は恩義を忘れず、困ったときに受けた支援を後々までおぼえているという意味です。全ての人とは言いませんが中国人に義理堅い人が多いのは確かです。一度感謝されるといつまでも変わらず敬愛され訪問したら大歓迎されます。仕事を離れても続く温かい人間関係です。私の先輩にもそういう人がいて勉強させてもらいました。
同じ仕事をするならやはり誰かに感謝されて敬愛されるような仕事をしたいものです。希望しないのに中国に派遣されてやる気を持てないままダラダラ過ごしている人に会うことがありますが、既に中国にいるのに腐っていても仕方がありません。早く気持ちを切り替えて、中国に貢献しながらしっかり利益を得る、親身になってローカルメンバーを支援して一緒に目標を達成する等々、前向きにやっていきましょう。そんな人は必ず感謝されて固い友情が生まれ、豊かな中国生活が送れる筈です。そしていつしか嫌いだった中国が何となく好きになっていたりするものです。
中国人は長い歴史の中で培ってきた戦略や戦術に長けていて、交渉事が得意です。おっとり刀の日本人が丸腰で挑んでいったら軽く手玉に取られます。中国ビジネスに携わる人は孫子の兵法くらいは一読して、中国人は普通にそれくらいのことは考えていると認識していた方が良いです。
孫子とまではいかないまでも、交渉事でよくあるのが「初頭要求は大きく」というやり方です。売買価格など交渉して落とし所を探る場合、多くの中国人はビックリするほど大きな(小さな)値を提示します。私の経験上、多くの場合が自分が落とし所として期待している値の倍です。そこから始めると交渉を進めても最悪でも半分、つまり自分の期待値で落とせるだろうという計算です。実際日本人の初頭要求値はせいぜい二割から三割増し程度なので、まともに組み合って交渉をすると勝てません。
対抗策はやはり同じようにこちらも期待値の倍を初頭要求にすることです。実際にはこれでイーブンですから、相手が引かない範囲で倍+αの値を提示するのが良いです。そこからの交渉では日本人的な気遣いは一切不要で、ストレートに要求値をぶつけていくだけです。成立しなかったら困る商談もありますがそんなことは顔に出さず、クールに交渉を進めていくことです。
近年はビジネスコンプライアンスの意識が高まり接待や贈答を正当なビジネス判断を阻害するものとして禁止する企業が増えてきました。日本でもお中元やお歳暮の習慣が残っていますが、中国では接待贈答が礼儀やコミュニケーション手法として根付いていますので、禁止するのはなかなか難しいです。
多くの中国人にとって接待贈答はお世話になっている人へのお礼であり、お礼を欠くと礼儀知らずということになります。だからサプライヤーを訪問したら必ず食事や宴会に誘われますし去り際にはお土産を持たせてくれようとします。これを断るのは容易ではなく、ルールなのでと辞退しても聞き入れてくれませんし割り勘を申し出ても受け取ってもらえません。あまりに固辞していると気分を害されて関係がギクシャクする場合すらあります。
職場でも部下が上司に奢るのが当たり前で、日本とは逆なので面食らいます。こちらが奢ろうとしてもなかなか出させてくれません。また、友人関係でも割り勘は敬遠されます。奢られたらそれを覚えておいて次回は奢る。それによって友人関係を続けるような意味合いがあるので、割り勘にしてしまうとその場で関係も精算してしまうような感じを受けるようです。
そういう文化であり習慣なので、その中にあってはビジネスモラルは守りながらも相手の気持ちを考えたある程度柔軟な対応が必要です。賄賂ととられかねないような豪華なものは論外として、一緒に食事をするなどは奢ってもらったら次は必ず奢るなど、対応を工夫するのが良いと思います。
ただ、最近は中央政府の接待贈答が抑制政策もあって変わってきました。若い人を中心に割り勘も徐々に増えてきました。今後はビジネスモラルと習慣の狭間で悩むようなことは減ってくると思います。
個人主義だといわれる中国人ですがそれは他人の中にあっての話で、家族や仲間など身近な人はとても大切にします。職場においても仲間意識を高めることができたら互いに助け合う強固なチームになります。そのためにチームビルディング活動は極めて大切です。活動の内容は何でもよく、私が参加したのは2泊3日小旅行、ドライブ、山登り、バーベキュー、撃ち合うゲーム、釣り等々で、老若男女問わず楽しめる一般的なものでした。重要なのは参加することです。近年では日本の方が個人意識が進んで職場の懇親イベントは減りましたし、開催しても参加は強制ではなく不参加も容認される雰囲気になっているので、その感覚で辞退する人が多くなってきています。中国人のイベントに参加しても言葉が通じないし面白くないという思いもあると思います。しかしそこは敢えて参加する方が良いです。大してコミュニケーションできなかったとしてもその場にいて楽しい雰囲気を共有したというだけで仲間意識はしっかり芽生えます。
あなたがチームを率いるリーダーならば定期的にチームでのイベントを企画するよう指示して実行させるべきです。チームメンバーの誕生日には就業時間で簡単な誕生会を実施するのも大変喜ばれます。
機密管理は企業の競争力をマネージする上で重要ですが中国では日本よりも機密漏洩のリスクが高いので注意が必要です。理由は先ずは個人の機密管理意識が低いことです。中国は急激に発展しましたがビジネスセンスやモラルは未だ発展途上です。機密管理認識はあってもその範囲や深さには個々人でバラツキがありますし、機密が漏洩したらどんなダメージを受けるか知らない、或いは会社を守る意識が日本人ほど高くないので軽く考えていたりします。機密管理ルールを明確に決めて(対象、管理方法、漏洩した場合の影響、違反時の罰則等々)、更に罰金制度を加えることが有効です。
更に難しいのが転職者の機密管理です。日本人に比べてキャリアアップのために転職していく人がたくさんいますが、その際に機密情報を個人の資産として持ち出す人がたくさんいます。これも退職時の持ち出し禁止ルールを明確にする必要がありますが、データ等は確認が難しいのが実態です。退職後にも発覚が漏洩した場合は追求することをルールに織込むくらいです。
そしてよくあるのが、転職した人も職場や職場仲間の懇親会に呼ぶことが多いのですが、そこで開発や技術の進捗や品質問題等々の機密情報を話題にするケースです。アルコールも入って饒舌になり、機密管理意識も希薄になって社内にいるのと同じ、時には踏み込んだ話をします。これを制限するのは極めて難しいです。冒頭の個人の機密管理意識を相互注意ができるレベルまで高める必要があります。
中国のみならず海外に進出した日本の企業ではローカルスタッフの離職に悩まされるケースが多いです。一方で採用は比較的順調です。理由はいろいろあると思いますが私が見聞きしてきた実例では、教育訓練が丁寧で充実しているから入社しますが昇進や給与UPが望めずに他へ転職していくパターンが多かったです。
欧米系企業と比較すると、日系企業は教育訓練については確かに多くの時間を割いていると思います。ただ欧米企業は文書化・マニュアル化が徹底しており、それを自分で読んで勉強するスタイルであるため、あえて教育という名目で時間をかけていないように思います。対して日系企業はマニュアル化ができておらずOJTで教えていくスタイルが多いです。日本の本社に派遣して教育したりもします。教わる方にとっては懇切丁寧でありがたいと思います。しかし問題は教えたスタッフが離職してしまうと後には何も残らないことです。海外では特に意識して文書化を進める必要があります。とは言っても一からマニュアルを作っていくのは大変ですし技術やプロセスは進化していくので改訂も必要です。そこで、研修生に学んだことをレポートとして文書化させてそれを共有のマニュアルとし、以降スタッフに研修を受けさせるたびにそれをフォローアップさせるのが網羅的で効率的だと思います。
そして教育を受けたらそれを糧に他の会社に転職していく人がとても多いです。給料を倍にするとか現企業より上の職位を与えるとかの条件で、優秀な人ほど多くが離職していきます。それでも「給料を倍出されるなら仕方がない」と対策を打たず放置している例が多く見られます。問題はそこにあります。外国人は日本人と比べて会社への帰属心が薄く自己の成長に貪欲ですから、それに応じた人事制度が必要です。日本式の「長期間同期横並び」終身雇用を前提とした「緩やかな給与上昇」では、優秀な人ほど不満を感じて離職していき、残るのは平均以下の人たちということになります。優秀な人には特別な待遇や昇進ルートを準備するなど、メリハリのある人事制度が必要です。
中国人の同僚と仕事をして感じる彼らのモチベーションの源泉は個人の成長です。仕事を通して成長の機会が与えられるのを期待する人が多いです。お金が好きな人が多いイメージですが特に若い人たちは給与よりも成長を重視していると思います。中国は近代になって生まれがどうあれしっかり勉強すればいい大学に進学でき、いい職を得られる社会になりました。今の若い人はそれができなかった親の世代の期待や訓示を受けて厳しい競争に身を置いてきています。理系の優秀な学生が目指すのが今後伸びていくITの世界だというのがそれを表していると思います。日本の優秀な理系の多くが目指すのは医師なので、産業の発展においては差が広がっていくのは自明の理です。
従って中国人の部下に仕事を与える場合は、その人のキャリアプランをしっかり考えた上で、成長に寄与する仕事をアサインするのがやる気になってもらうポイントだと思います。これは日本人の部下に対しても重要ですが、日本人の場合は個人よりも会社の業績への貢献を重視する面もありますし、近年ではワークライフバランスを重視する傾向もありますので、個人のキャリアを十分に考慮していない、あるいはあえて伝えていないことが多いと思います。この認識のまま海外にも進出するため、ある程度育った従業員がどんどん流出してしまっています。「日本の常識は海外の非常識」と認識した方が良いことの一つです。
中国人には個々人のキャリアプランを踏まえて「あなたの〇〇の能力を伸ばせるからこの仕事をやってもらう」という仕事の与え方をする必要があり、そうすることでやる気になってもらえると思います。
業務報告は面倒ですし上司にあれこれ指図されたりするのが嫌で敬遠する人も多いですが、中国人は日本人に比べて報告が好きな人が多い印象を持っています。報告されるのも好きです。現在の中国人は各々が上昇志向が強いため、自分の業績をアピールしたいというのがその理由ではないかと思います。だから上司への報告が特に好きです。中国人の部下を持つ人は必要に応じてどんどん報告を求めていったら良いと思います。
ただ、報告の内容や資料はチェックした方が良いです。資料をみると自分が言いたいことを文章で長々と羅列しているだけだったり、概念的なことばかりで具体性に欠けていたり、華美なだけだったりと、何が言いたいのか分からない冗長なものが非常に多いです。もちろん人によって異なりますが、私は中国人の報告資料で的を得たものを見た機会は少ないですし、私が作った資料を分かり易いと感心してくれたりしていたことを考えると、不得意な人が多いのだろうと思っています。
ポイントは報告の目的を明確にすること、パワーポイントの場合は序盤のページで全体観を表して目次を記述すること、ページ毎の伝えたいメッセージを端的に記述すること、的確な概念図や図表を用いて読まなくても見れば分かるように工夫すること、理解を深めるための具体的事例を記述すること、そして長過ぎないこと、そして最も重要なのは読み手聞き手の立場に立って伝わるかチェックすることだと思います。
これは能力というよりは、どういう報告が伝わりやすいのかを理解しているかどうかというだけの問題なので、誰でも指導と訓練で上手になります。「中国人の報告は分からない」とぼやく人が多いですが、先入観や印象で判断せず、しっかり教えていくことが必要です。
中国人だけでなく外国人は日本人に比べて自発的なチームプレイが上手でないようにみえます。日本人が他に対して上手すぎるのでそう感じるのだと思います。日本は江戸時代の鎖国による遅れを取り戻すべく、明治政府が掲げた富国強兵に対する施策の一つの教育政策で、欧米の知見を丸暗記することと団体の機能を高める和を重視した教育が開始されました。私見ですが日本の教育は現在に至るまでこれに基いていて、それ故に日本人は集団行動が非常に得意です。高度成長期にはそれが功を奏し各々が企業という集団の発展に大きく貢献しました。しかし消費者のニーズが多種多様化してきた現在、個々の要求に答える取り組みには上手く適応できていないのが現在の姿ではないかと思います。いずれにせよ日本人は言われなくても集団への貢献を当たり前のように実施する特別な資質を持っています。
一方で外国人がチームプレイができないのかというとそういう訳ではなく、きちんと役割が決められていて期待されるものを理解していれば十分以上にできます。日本人との違いは何も言われなくてもやるのかどうかです。やる人もいればやらない人もいます。日本人としては外国人が自分と同じように何も言わなくてもやってくれるだろうと放っておくのではなく、チームプレイの中での個々人の役割と期待値を明確に伝える必要があります。そのために網羅的で緻密な業務設計が必要になります。それを認識しているか否かでチーム業務のアウトプットは大きく異なります。
日本人も中国人もハイコンテクストで意思疎通をする方だといえます。特に日本人はほぼ単一民族で閉ざされた島国で続いてきて、更に明治からは和を重視する教育が続いているので各人の価値観や考え方、常識が非常に似通っていて、いわゆる「あうんの呼吸」で言葉が少なくてもニュアンスや表情で互いの意図が伝わります。そのためはっきり全てを言葉にしないことが多く、その影響か論理的説明もあまり上手ではありません。中国人も世界的にはハイコンテクストの国だといわれています。(ただし地域差があり東北の方が言葉で表現する人が多いように思います。)しかし教育の賜物なのか、論理性は高い人が多いです。
その日本人と中国人がコミュニケーションをする場合、価値観や文化的背景が異なる訳ですから、自分の常識で言葉少なくコミュニケーションをしているととんでもない勘違いが生じるリスクがあります。特に日本人と中国人は外見が似ているので、無意識のうちに相手も自分と同じでは?と考えてしまうこともあります。間に通訳を挟むと更に難しくなります。
そのような関係なので、特にビジネスコミュニケーションの場面ではしっかり言葉にして論理的に説明することが大切です。更に日本語は曖昧で複雑な表現が多いので意識的に直接的な表現を用いる必要があります。論理的説明は因果関係を明確に言葉と言葉を繋いでいくことを意識すれば上手にできるようになります。日常のコミュニケーションでは誤解を生みながらもそれがスパイスになって分かり合うようなこともあるのでハイコンテクストコミュニケーションも面白いと思いますが、利害が生じるビジネスでは全て明確な言葉で論理的に伝えるようにしましょう。
中国人のみならず外国人とのビジネスコミュニケーションでは日本人は意識して「結論→理由・背景」の順で発言する必要があります。日本人の発言は理由や背景から初めて最後に結論を言うことが多いです。中国人のみならず外国人とのコミュニケーションではこれが仇になることがあり注意が必要です。外国人は「結論→理由や背景」が多いです。特に多民族国家の人は考え方の異なる異民族に意思を伝えるために端的で直接的な表現を用います。中国人は理由・背景から説明に入る人もいますが日本人ほど多くはない印象です。対して長くほぼ単一民族で過ごしてきた日本人は各人の考え方が類似していて意思疎通が容易なので、間接的で優美な言い回しを用います。背景や理由の説明から入り相手の反応を伺いながら修正しつつ、最後に結論を言う。場合によっては結論がない場合もあります。それでも日本人同士ならあうんの呼吸で伝わったりしますが、外国人相手だとそうはいきません。結論を最初に言う外国人にとっては日本人の背景説明が曖昧な発言に聞こえ、話に割って入ります。発言を遮られた日本人は結論を言えていないのでストレスが溜まります。結果、外国人の方は日本人に対して「曖昧で優柔不断人だ」と感じますし、日本人の方は外国人を「失礼な人だ」とか「思慮が足りない人だ」と感じます。
更に通訳を挟む場合は、冗長な背景説明で通訳が混乱したり途中で訳さなくなったりして、ますます意思疎通が難しくなります。日本人がたくさん話したのに通訳が少ししか話さず、日本人が「あの通訳は先方の味方をしているのではないか?」などという場面は多々ありますが、一方で通訳が先方に「今はどうでもいい話をしている」などと言っていたりします。
「結論→理由・背景」の説明は慣れれば難しいことではありません。グローバルビジネスでは意識して発言しましょう。
自分自身が中国語をマスターするに越したことはないのですが、ビジネスで使えるレベルにまで完璧にマスターするのは難しく、通訳を挟むのが無難です。通訳を選ぶ際のポイントは業務に精通している人を選ぶことです。業務の知見が多く、語学力が高い人が理想ですが、両立した人がいない場合は語学力より業務の知見を優先すべきだと思います。最近は中国でも日本語を学ぶ人が増えていますが、日本語が好きなだけの人と日本語を使って仕事のスキルを身に付けようとしている人では業務のコミュニケーションに対する真剣さや向上意欲が全く異なります。通訳を選ぶ機会があるのなら必ず面接をして業務そのものに対する意欲の程度を見極めたいところです。
通訳を固定することも大切です。通訳が変わったら前回話したことを知らないので誤った伝え方をするリスクがあります。通訳を固定したら前回のコミュニケーション結果や知見はその通訳に蓄積していくので、積み上げの正確なコミュニケーションができますし、何よりその通訳の育成に繋がり、通訳の役目を超えたスタッフ業務ができるように成長していきます。部門スタッフより経験の長い通訳の方が業務に詳しくなるのはよくあるケースです。
その他、日本人と中国人のコミュニケーションスタイルの違いを理解して適切につなぐことができること、どちらかの味方になるのではなく中立性を保てることなどが重要な要素です。
通訳にはバッファー役の機能もあります。利害が相反する場面では発言が感情的になりがちですが、気の利いた通訳は議論を阻害する不要な感情的な言葉をさりげなくカットしてくれます。あるいはセンシティブな話で双方の納得が得られなかった場合に意図が伝わらなかったのを通訳のせいにして当事者同士の関係は良好に保つようなことにも使えます。もちろん通訳が自社のスタッフである場合はやるべきではありませんが。
一方、自分自身もある程度は中国語を学習して通訳が誤った翻訳をしていないかチェックできるようになるべきです。完全に通訳任せにしていると思わぬ誤解が生じている場合に気が付かず、重大な問題に発展してしまうようなこともあり得ますので要注意です。
日本の会社での会議は参加者が議論をしながら全体の合意を形成していき、リーダーの了解や合意を得てそれが結論になるのが一般的です。中国の会議では、まずは担当レベルの人がそれぞれの意見を述べ、次にその上の職位の人たちがコメントし、最後の参加者の中で最も職位が上の人がコメントし、それをもって結論とするものが多いと思います。あまり議論をするという感じではなく、それぞれの意見を聞いて最終的にトップが判断するというスタイルです。そのやり方にはもちろんメリットもデメリットもありますが、日本人的に議論をしようと思って待っていたらあっという間にリーダーのコメントの段階になって、自分の意見を織り込めないまま終わってしまうことが多々あります。
また、このスタイルでの最大の問題は、リーダーが複数いる場合に相反するコメントをしたままそれを整合することなく終了してしまうことです。中国人は日本人より互いの面子を重んじる傾向があるので意見が異なる場合でもあからさまに否定することはあまりありません。結論が割れたまま散会してしまうと部下たちはどの指示に従えば良いか分からず右往左往することになります。
この会議スタイルで自分の考えを織り込むにはやはりリーダーに賛同してもらう必要があります。リーダーも議論の中で聞いた話だけで判断するのは難しいですから、事前に相談して了解してもらうことが必須です。リーダーが中国人であれ日本人であれ、平時でのポイントを押さえた報告や相談をすることが重要です。そして会議でリーダー間で意見が割れた場合は放置することなくどちらの方向に進むのか確認する必要があります。日本人が外国人であることを利用して、第三者的立場で確認を買って出るようにすれば軋轢なく結論を導き出せます。
違う領域の人たちが集まって会議をする場合に自部門の主張だけをして何も決まらないことが多いです。日本の会社でもよくあるケースですが中国の場合は更に顕著だと思います。中国人は自己主張がはっきりしていてそれをストレートに表現します。私の経験では中国でも北の人の方がその傾向が強いです。また、互いの面子を重んじるので他人の意見を真っ向から否定することはあまりありません。これは南の人の方が傾向が強い気がします。その二つが合わさって、それぞれが意見を言うだけでそのまま何も決まらずに散会することが多々あります。
単なる連絡会議ならそれで良いのですが結論を導く必要がある場合は誰かがしっかり議論をリードする必要があります。基本ですが、議長は予め目的と期待するアウトプットを明確にして議論構成を設計しておき、それを会議の冒頭で、可能であれば前もって参加者に伝えておく必要があります。その上で議論に入ったら目的から逸れたコメントは軌道修正しつつ、領域間で利害がぶつかるようなコメントを全体最適視点で調整しつつ、結論を導くようにリードする必要があります。難度は高いですがこれができれば建設的な議論ができて参加者からも感謝される結果になります。
中国の中で日本人は外国人なので第三者的な立場に身を置くことが容易です。それをうまく活用して議論のリード役を担うのが良いと思います。
中国人だけでなく多くの外国人は「ありがとう」や「すみません」を口にすることが少ないです。外国人が少ないというより日本人が多いのだと思います。これは周囲との和を重んじる日本人の気遣いでありその習慣によって形成された日本語の特徴だと思います。個人的にはおはようやこんにちはなどの挨拶は日本人らしくたくさんすれば良いと思いますが、ありがとうやすみませんを日本人的に多発するのはコミュニケーション上問題が生じがちなので注意が必要だと思います。
ありがとうはポジティブワードなのですみませんよりは良いですが、多用すると相手に心理的な距離を感じさせることがあるようです。日本人ペースで小さなことにまでお礼を言っていると、你太客气了(遠慮し過ぎ)です)言われますし:、更に進むとありがとうの重みがなくて本当に感謝されているのか分からないと言われます。迷惑を掛け合う、お世話になり合うことで絆を深めるような習慣があるので、ちょっとしたことにはありがとうを言わない方が親しみを感じるようなこともあるようです。
すみませんの方はネガティブワードなのでかなり注意が必要です。日本語のすみませんには謝罪から呼びかけ、感謝などいろいろな意味合いが含まれていて日本語を学ぶ外国人が理解し難い言葉の一つですが、それ故に日本語的に使うと誤解が生じるケースが多々あります。先ずは伝えたいことに適した言葉を選択する必要があります。直訳の对不起を全てに使うと本当に謝罪ばかりしている人にみられますので要注意です。そして感謝の意味を表す場合はありがとうの方がポジティブで良い印象を与えます。これは日本語でも同じだと思います。その上でやはり多用し過ぎない方が良いです。ちょっとしたことにすみませんと言っていると「誤ったのだから自分の非を認めている、然るべき対応をすべき」ととられたり、マンネリ化して重要な案件の時に謝罪の意思が伝わらないということになります。先の戦争関連で日本政府の謝罪の意図が諸外国に伝わらないのはその辺りにも原因があるのでは?と思います。
日本人的なありがとうやすみませんの用法は気遣いの上ではとても優美で優れたものだと思います。しかし日本人固有のものだということを理解していないと、逆に日本人の方も外国人に対して無礼な人だと反感を持つことになります。ただ、中国人の場合は最近では若い人を中心に気遣いのありがとうやすみませんを口にする人が増えてきたのも事実です。相手との違いを認識して尊重して合わせていく配慮が必要です。
中国国内の会社では出退勤時の挨拶が日本より少ないです。出勤時の「おはようございます」や退社時の「お疲れ様でした」など意図的に言う中国人は少なく、そのまま仕事に入る人が大半です。日本的におはよう!と声かけするとちょっと戸惑った様子をみせたりします。これはもちろん単なる習慣の違いで、悪気があってものではないので、過度に気にする必要はありません。こちらも淡々と仕事を始めて何の問題もありません。
ただ、中国人も挨拶されて悪い気がするものではないので、挨拶されたら少し戸惑っても次の瞬間ニッコリ笑って挨拶を返してくれる人が多いです。良いことなので日本人らしく挨拶し続けると好感度が上がると思います。
一方、その挨拶をしない環境に慣れ過ぎてしまうと日本の会社に戻った時に挨拶が出てこなくて、感じの悪い人だと思われるリスクがあります。気を付けましょう。
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