自宅での学習スペースの確保もさることながら、自宅以外での学習の場の確保も重要です。一人で学習しているとモチベーション面で行き詰まることがあり、そんな時に他の人が学習している中に身を置くと周囲に影響されてやる気になったりします。「みんな頑張っている、私も頑張ろう!」ということです。つまり勉強場所の中でも単なる空きスペースではなく、比較的たくさん人がいてそれぞれが黙々と勉強に取り組んでいるような場所が理想です。
高校生や大学生なら学校や予備校の教室や図書館の自習スペースなど、選択肢はいろいろありますが、学生ではない大人にはなかなか身近にいい場所がないものです。地元の公民館などでは、近所の人に会ったりして勉強しているのがなんとなく照れくさかったり、話に花が咲いて勉強にならなかったりします。私としては大学の図書館や学習スペースがお勧めです。学びの環境に身を置くと気が引き締まりますし、学生さんたちもたくさんいて勉強しているので影響されてその気になり易いです。一般開放しているかどうか問い合わせてみると良いと思います。国公立大学や大きな私立大学なら使わせてもらえる可能性が高いと思います。適当な大学がない場合は、街中の比較的大きな図書館や文化交流センターなどで、自習している人が多い場所を探すべきかと思います。
私は日本でも外国でも行く先々で地元の大学を見に行くのが好きです。環境や建築物、若い学生さんたちの様子を眺めることもさることながら、やはり一番の理由は自分の学ぶ意欲が刺激されるからです。特に中国の大学では、休日には日本とは比較にならないほど多くの学生が図書館や教室で勉強して、大いに刺激を受けます。基本的に全学生が大学敷地内の寮で生活していることもありますが、子供の頃から勉強漬けの日々を送ってきているので学習に対して非常に真面目であることが起因していると思います。多くの中国の大学は開放的で一般人でも自由に入って(近年ゲート管理が導入されるところも出てきましたが)使えるところが多いので、中国在住の人は是非一度見に行ってみて下さい。私はたまにシラっと教室に入って自習することがあります。規則的に良いのかどうか分かりませんが、学生さんに聞くと問題ないと言いますし、これまでにつまみ出されたこともありません。
やる気になって集中できる環境を整えることはとても重要だと思います。人によって最適な学習環境は異なりいろいろなスタイルがあると思いますが、一般にはその場に行けば気が引き締まってやる気になり、邪魔されることなく集中できるスペースを作るべきだと思います。
私の場合、単身生活をしている時は、誰にも気兼ねがないので、中国語の教材も趣味の本もテレビもパソコンも仕事の資料等も、全てのものを近くに自分が便利なように配置、というか放置してしまいがちです。その結果、何もかもが同じ部屋に置かれ手が届きやすい場所に散乱した状態になります。これは思い付いたらすぐに教材を確認することができる一方で、楽しいものに気持ちが移りがちです。気軽に着手できることを重視して成り行きでこのような状態を試してみましたが、結果的には長時間集中するには適していませんでした。やはり、部屋の一角にでも中国語学習専用のスペースを作り、そこでは中国語しかできないという状態にしておくべきです。テレビ、パソコンなど何となくつけて見入ってしまうようなものとは別の場所にするべきです。すると今度はその場所に行くのが億劫になったりもしますが、中国語として楽しい雰囲気を醸し出すものを配置するなど、工夫することで克服したいです。私の場合は読書が好きなので、中国関係の本を並べることでその場に行きたくなるようにしています。本をたくさん並べるとアカデミックな気分になり、気が引き締まります。
家族と暮らしている場合は、学習に対しての外乱が多いので更に工夫が必要です。学生さんなら良いですが、大人で家族の用事や家事を担っている場合は、好きな時間に気ままに勉強するという訳にはいきません。単身生活の場合と同じように専用の学習スペースを設けることに加えて、家族に協力してもらえるよう、学習に充てる時間を決めて了解を得ておく必要があります。一般に昼は仕事をしてますし、夜は家族団欒の時間を持ちたいものです。だから学習時間は早朝が最適だと思います。一人の時間が確保しやすいですし、朝は脳が効率的に機能しますからお勧めです。そして勉強中はなるべく声をかけないよう家族にお願いしておくべきです。もちろんその分、他の時間は家族としっかり交流する必要があるのは言うまでもありません。家族の幸せと仕事と学習をうまく成立させてこそ、一人前の兼業学習者です。頑張りましょう。
勉強という言葉は中国語では「学習」ではなく「無理に強いる」という意味です。現代の中国学生の勉強は、日本でいう勉強より本来の意味で表すに相応しい状況になっていると思っています。中国の受験戦争が凄まじいことは広く知られてきたと思います。以前は生まれや親の人脈の有無で人生がほぼ決まってしまう国で、人々は無駄な努力はしなかったり海外に活路を求めて出て行ったりしていました。その反動もあるのだと思いますが、能力さえあれば生まれに関係なく成功を手にできる国になった今、みんな気合を入れて勉強します。一人っ子政策が続いたので親や祖父母の期待や応援も尋常ではなく、子供たちはものすごいプレッシャーの中、必死で勉強をしています。
2019年の高考(日本のセンター試験にあたる大学共通試験)の受験者は約1031万人だそうです。日本のセンター試験受験者数は約58万人ですから、日本のなんと約18倍です。人口比よりも大きく、中国の方が若年者の比率が大きいことを考慮しても、大学入試にチャレンジする人の比率は日本と同等かそれ以上だと思います。さすがは科挙の国です。そして近年では各地の高考の試験会場前で、チャイナドレスを着た母親たちが子供の試験が終わるのを待っている姿が見られます。チャイナドレスは中国語で「旗袍」なので、成語「旗开得胜」(幸先の良いスタートをきる、好成績をおさめるという意味)にかこつけた一種の「ゲン担ぎ」なんだそうです。親の力の入れようが分かります。
子供たちは幼少の頃から勉強漬けの生活をしています。幼児から習い事を始め、小学校に上がると学校でガッツリ勉強です。クラブ活動などはなく進学校では体育の時間も算数などに切り替えられます。授業は6時とか7時とかまで続きます。そして大量の宿題を与えられ、帰宅してからは夜遅くまで宿題です。教師は担当する生徒の成績で評価が決まりますから、こちらも必死です。生徒何人かのグループを作って、母親に夜の宿題の進捗を管理させ、微信で報告させます。各生徒の母親たちは子供の宿題が終わったらグループのリーダーの母親に報告をし、リーダーの母親は全員の終了が確認できたら先生に報告します。先生は各グループの宿題完了時間を公表して、遅いグループを叱り指導します。そんな仕組みを作っているので親も子も必死にならざるを得ません。中国では女性もほとんどが会社で働いているので、母親は昼は仕事、夜は子供の宿題のサポートでクタクタになっている人が多いです。窓から見えるマンションの部屋では、小学生高学年くらいの子供が、平日は夜遅くまで、休日は朝から夜まで母親がついて勉強する姿が見えます。
そんな状態を見聞きしてきて、中国語もこれくらいやったらできるようになるだろうなとは思うのですが、さすがに見習う気になれません。80后くらいから言われ始めた「詰め込み学習で知識は多いが創造性や協調性に欠け、何でも親にやってきてもらったから自分では何もできない、そんな人が増えている」が、90后になるとさらに増え、現在の中国の教育に疑問を感じる人も増えています。私の知人にも中学生くらいからアメリカやシンガポール、マレーシアなどに留学させる人が増えています。選択肢に日本が入っていないのは残念ですが、考えてみれば日本も暗記詰め込み教育なので選ばれないのは当然かもしれません。中国も日本も教育について今一度考えてみるべき時期なのかもしれません。
中国はなぜ「学力世界一」になれたのか – 格差社会の超エリート教育事情 (中公新書ラクレ)
外国に住んでいるとその国が嫌いになる波が定期的にやってくるものです。特に中国の場合は、まだまだマナーが悪かったり自己中心的な言動に遭遇するなど、日本人からみるとイライラしたりゲンナリしたりすることが多いので、比較的大きな波となってやってきます。私の場合は、中国赴任当初はだいたい3ヶ月毎に来ていましたが、最近では6ヶ月毎くらいに周期が長くなってきました。その波が通り過ぎると今度は手のひらを返したように好意的になったりします。この波に合わせた学習のメリハリが必要だと思います。
嫌気の大波が来た時に無理に中国語の勉強をしてもはかどる筈がなく、返って嫌気を倍増させる結果になります。せっかく学習を重ねてきた中国語が「見るのも嫌!」ということになってしまうのはもったいないので、この時期は思い切って学習をストップすべきと思います。大波に逆らわず、中国関連のものにできるだけ触れないようにして気分を変え、なるべく早く大波を去らせるのが得策です。大波さえ去ってしまえば、モチベーションは復活します。
そのためには自分を客観視することが重要です。私の場合は兆しは食の好みの変化に現れます。普段好きな烤羊肉串や重庆火锅、兰州拉面、白酒などに嫌気がさしてきて日本食が恋しくなってきたらたらすぐに生活パターンを変えます。人によって違うと思いますが「なんとなく疲れたな、嫌だな。」と感じ始めたら、気分転換に入るべきだと思います。中には無理をし続けて精神のバランスを崩してしまう方もいらっしゃいます。真面目でひたむきな人ほどそういう事態に陥りがちです。好き嫌いの波は誰にでも、どんなものに対してもありますので、時には肩の力を抜いてやり過ごすように工夫しましょう。
中国で単身赴任をしていると行動が限られてどうしても運動不足、体がなまってきます。そういう時にはフィットネスジムに行ってみることをお勧めします。日本でジムというとどちらかといえば年配の人が多く、おじいちゃんおばあちゃんが毎日お風呂に入りにきているかのようなノンビリした雰囲気ですが、中国のジムには若い人が多いのです。経済が発展して飽食の時代に入っている中国では肥満の人が増え、且つ若い女性を中心に美意識が上がってきているので、健康で美しくいようとジムでトレーニングをする人が多いのです。平日の終業後や休日の午後などは若い人の熱気でムンムンしています。男性でも女性でもやはり若い人が多い方がきらびやかで活気があって楽しいものです。日本では新年にダイエットを誓ってジムに入会したものの、年に数回しか行かなかったという、ジム経営者の思うツボになってしまっている人がたくさんいます。そういう人でも中国でなら続けられる可能性が高いです。是非一度見学に行ってみて下さい。
そして中国のジム(私が行っていたところ)では、トレーニングをしているとコーチが気軽に話しかけてきて指導をしてくれました。相手もわきまえているので断ればしつこくはしてきません。私の場合は特に断らずに言われるがままに指導を受けていたので、何人かのコーチと顔見知りになり、会えばちょっとした会話をするくらいの仲になりました。ジムが楽しいのでサボらず定期的に行く、行けば顔見知りと会話をする、会話をするためにトレーニングの用語を覚えていくという、中国語の勉強にも寄与するいい活動になっていました。
日本ではアメリカやヨーロッパ等に比べて中国に関するテレビ番組は少ないと思います。興味をそそるものをなかなか見付けられず、日本滞在中の中国語学習のモチベーション維持のため何かないかと思っていたら、知人が私好みの番組を見付けてくれました。「関口知宏の中国鉄道大紀行 〜最長片道ルート36000kmをゆく〜」です。NHKBSの番組で「春編」と秋編」があります。「春編」では2007年の春にラサ駅を出発し約2ヶ月かけて西安駅に到着、「秋編」は9月に「春編」の終着駅・西安駅から出発し、約2ヶ月かけてカシュガル駅に到着します。その間に下車した各駅周辺の様子、人々との触れ合いを記録したものです。中国各地を訪問した私には興味深くちょっとした冒険心も刺激されて、とても楽しいものでした。youtube などで見られますので是非一度ご覧になって下さい。中国の旅が好きな方には特にお勧めです。
関口知宏の中国鉄道大紀行 最長片道ルート36000kmをゆく 春の旅 決定版 DVD-BOX 全4枚
関口知宏の中国鉄道大紀行 最長片道ルート36000kmをゆく 秋の旅 決定版 DVD-BOX 全4枚
人によって興味は違いますが、中国に関する楽しい番組を見ると学習意欲が高まります。お気に入りの番組を見付けてみましょう。皆さんもいいのをご存知だったら是非教えて下さい。
スポーツでも勉強でもそうですが仲間やライバルは能力の向上に大いに寄与します。一人勉強は孤独でモチベーションの維持が難しくダラダラになりがちですがそれに歯止めをかけ更に高みを目指す気にさせてくれるのが仲間やライバルです。
ある知人はご主人の出向に同行して中国に来られました。滞在期間を無為に過ごすのはもったいないということで中国語を習うことにし大学の海外教育学院に入学されました。彼女にとって中国語の習得は特に必要のないものだったのです。入学するとクラスメイトの出身地は欧米や南米、オーストラリアなどがマジョリティー、次に韓国人、日本人は彼女だけでした。日本人として漢字のアドバンテージがあることもあって、筆記テストでは毎回彼女だけが満点、次第にクラスメイトの尊敬の眼差しを浴びるようになりました。こうなってくると逆にプレッシャー、クラスメイト全員が彼女が満点をとることを期待する訳ですから勉強の手が抜けない。元々優秀な方だということもありましたがしっかり勉強し続けて毎回ほぼ満点で走り抜けました。当然中国語力はどんどん伸びて、軽い気持ちで始めたにもかかわらず、数ヶ月でHSK4級で高得点を叩き出すまでになられました。
私の場合はライバルの存在がモチベーションアップに繋がりました。同僚に私とほぼ同時期に中国ビジネスに携わり、本格的な学習は私より少し後から開始した人がいました。HSK5級を私が先に合格していたこともあり追われる立場で、彼だけには負けられないと思っていました。彼もエンジンがかかってからは凄い勢いで勉強をし、後ろからひたひた迫ってくる足音が聞こえてくるようでした。もちろん負けられません。迫ってくる彼を引き離すべく私も猛勉強をしました。彼の方も少なからず私を追い越そうという気持ちがあったものと思います。結果、彼も私もHSKで6級合格レベルに達することができました。
皆様も周囲に中国語を頑張っている人がいるなら是非声をかけて、仲間でもライバルでもいいので互いに切磋琢磨していくことをお勧めします。
中国の友人たちと一緒に活動をし喜びを共有する、これは私にとって一番のモチベーションです。
ある時中国の大学で日本語を教えていた先生にお会いしました。日本語を教えるにはその背景にある日本の文化も教えていくことで教育効果が上がるということでした。日本の文化を体験するために着物を着たり生け花や茶道をやってみたりされていました。私はこの話に興味を持ち、私が学生の頃から続けている空手を教えましょうかと申し出て、やってみることになりました。対象は入学したばかりの一年生、日本語がまだ上手ではないので二年生の子が通訳としてついてくれました。この学校では文化祭があり各学部が出し物をするのですが、そこで空手の演武をやることにしてそれを目標に半年間、週二回から三回の練習を始めました。初めは日本人と空手に戸惑っていた学生さんたちも次第に慣れてきて、私の下手な中国語と学生さんたちの下手な日本語の愉快なコミュニケーションが始まりました。空手の練習も大いに盛り上がり、半年間で基本的な形と約束組手ができるようになりました。そして文化祭では全員が一糸乱れず見事な演武を披露しました。感動しました。
そして先生はその後の学生さんたちの日本語習得の伸びに着目し、クラブの活動が学業に与えた好影響の要因を分析して論文を発表されました。
この空手クラブのメンバーは家族のような関係になりました。学生さんたちは今ではそれぞれ就職したり日本に留学したり大学院に進んだりしていますが、今でも微信で連絡を取り合いますし一緒に食事をしたりしています。まさに日中友好の架け橋になっています。
私はその後も別の大学で空手を教えています。教え子がどんどん増えてきてとても嬉しいです。
私の活動はやや特殊な例かもしれませんが、目標を持って一緒に頑張る、苦楽を共にすることで絆が生まれるというのは本当に幸せなことです。交流を深めるために中国語の学習にも力が入ります。皆様も仕事以外にも仲間を作りいろんな活動を通して交流を深められることをお勧めします。
時間がとれない兼業学習者でもHSK6級合格レベルに到達できるノウハウ集