私は3回目の中国赴任に際して、中国語オンリーで仕事をしてみようと考えました。目的は自身の中国語力を強化すること、そして中国人の同僚とのコミュニケーションを良くすることです。前回から約一年半のブランクを経ての赴任でしたが、それなりに長い間勉強してきたのだからまあ大丈夫だろうと楽観的に考えて、赴任早々「中国語オンリーで仕事をする!」と周囲に宣言しました。導入教育として半日ほど就業規則や業務上の様々なルールを中国語で説明してもらったのですが、これがなんと自分でも驚くほど良く分かったのです。すっかり気を良くした私は、本格的に中国語オンリー宣言をして翌日からの業務に臨みました。しかし導入教育の時と違ってどうもよく分からない。耳が慣れてないからか?と思ってしばらく続けていたのですが、一向に聞き取れるようにならない。そこでふと気が付いたのです。導入教育の内容は前回の赴任時に聞いたものとほぼ同じだったということに。内容が記憶の片隅に残っているから、聞き取れたのでなく、思い出しただけだったのです。これはヤバイと思って、周囲に「中国語オンリー宣言は取り消す」と言っても、みんなニヤニヤして「初志貫徹で頑張ってね」ととりあってくれません。そしていろんな問題に悩まされるようになりました。
まず、通訳さんが来てくれなりました。当社では通訳専門のチームがあり、申請すれば打ち合わせの場に来てくれるのですが、中国語オンリー宣言をしてからというもの、私が頼んだら笑って来てくれない、同僚は私のためには通訳を頼んでくれない、という状況になってしまいました。また、同僚が容赦なく中国語で話すようになりました。中国語オンリーだと宣言したのだから当たり前なのですが、以前は直接話をするにしても英語を交えてくれたり、中国語ならゆっくりと簡単な用語を選んで話してくれたりしていたのですが、宣言の後は容赦なく中国語だけでネイティブ同士の会話と同じノリでペラペラ話してくれます。もちろん半分以上分かりません。言われることが理解できなくて、曖昧な受け応えをしたり答えられなかったりしたら「明確に否定しなかったから合意」などと都合よく解釈されたりします。仕事上の軽い会話なら良いのですが、重要な案件だと重大な問題につながります。実際に何度か痛い目にあいました。ある時は、仕事の付き合いがある中系サプライヤーが日本のとある会社に「○○社の○○さん(私)の推薦で御社と提携することを検討しているので近々貴社を訪問したい」と身に覚えがない連絡をされてしまい、その収拾に一悶着ありました。そんな経験をしましたので、重要な案件の時だけは頭を下げて通訳さんをお願いすることにしました。
中国語力が向上したかと言われると、毎日中国語のシャワーを浴びているので、最近になって聞き取れることが増えてきたように思います。話す方はほとんど進歩していません。ただ、もう一つの目的のコミュニケーションについては、無謀な試みと下手な中国語がウケてすっかり人気者になりました。下手でも話そうと頑張る姿を好ましく思ってくれているようです。今後も任期一杯、頑張って続けてみます。