これは私の経験というよりは、私より少し前に中国で活動していた人から聞いた話がほとんどです。私自身はその時代の最後の方に少しだけ経験しました。
ある国営企業の企業城下町での話です。日本でいえばトヨタ自動車がある豊田市のようなイメージです。しかしその中身は全く違っていました。その街に住む人のほとんどはその企業と関連会社の従業員と家族でした。関連会社もほとんどが国営か国有の会社なので従業員は公務員のようなものでした。役場や警察などもそれらの企業関係者がやっていて、いわば大きな自治都市のようでした。そこに技術支援で行った人がその企業の人に言われたのが「人に害を及ぼすことでない限り、この街の中でならあなたは何をやっても大丈夫」でした。酔っ払い運転から喧嘩、器物破損から汚職関係まで、本当に何でもありの治外法権状態だったそうです。警察まで関係者なので、本当に事件性が高いことでない限り何でも見逃される訳です。その中でも職位が高い中国人はちょっとした特権階級のようなもので、かなりえげつないことにまで手を染めていた人もいたそうです。一方の小市民日本人たちは「何でもOK」と言われてももちろん大したことができる訳ではなく、せいぜい泥酔して街を徘徊するくらいのことでした。そして、そういう環境に身を置いていたことをちょっとした武勇伝として語って悦に入ってました。
そういう地域も近代化の中でどんどんクリーンな街になってきました。汚職撲滅、打黑が進んできた今では、ほんの数年前にそういうことがあったことは信じられないほどです。「中国はもうあのような時代に戻ることはないのだろうな」と懐かしく思い出されます。