話しているうちにだんだん論旨がすり替わってきて、諭しているつもりが知らぬ間に責められているようなことが度々ありました。相手に問題があるという話をしていたのに何やら枝葉の話に引っ張っていかれて知らぬ間に「あれ?こっち悪かったんだっけ?」みたいに流れていき、ぐるぐる回って訳が分からなくなる、「アンタが悪いのか私が悪いのか、ハッキリしてくれ!」状態に陥ってしまいます。これを私たちは「無間地獄」といって恐れていました。
例えば「失敗したのはあなたのせい」というすり替え。「①私たちではできないので支援して下さい→ ②(教えると)そんな難しいことは私たちにはできません→ ③失敗したのは支援できなかったあなたのせいです→ ④次回から責任を持って支援をして下さい→ ⑤①に戻る」
例えば「成功したのは私のおかげ」というすり替え。「①私たちではできないので支援して下さい→ ②私たちに分かるようにやってみせて下さい→ ③私たちの奮闘努力で成功しました→ ④元々支援は不要でした→ ⑤①に戻る」
こういう議論をしているうちにだんだん訳が分からなくなり、更に通訳さんも相手の会社の人なので「いい加減にあなたが悪いと素直に認めて下さい!」とか言い出して、流されてしまう人は「ごめんなさい」なんて謝ったりしていました。
しかしこれも続けていると慣れてきて適当にあしらうことができるようになってからは楽しめるようになりました。ポイントは「善かれと思って」をやらないことです。「できないので支援して下さい」と言われると「それは大変だね。あなたの仕事だから頑張ってね」と放置する→ 必死でやり始めます。やり方を教えて「そんな難しいことはできない」と言われると「そうか、じゃあ成功は難しいね。残念だね」と放置する→ なんとかできるようになろうと頑張ります。いよいよ失敗しそうになると涙目で本気でお願いしてくるので、その時に具体的に依頼してきたものだけを小出しに支援する。そうすると相手はなにやら大変感謝して「成功できたのはあなたのおかげです!」なんて両手で握手して乾杯を求めてきたりします。そして「次回もまた支援して下さい。谢谢合作!」とか言われると、「いえいえ、もうあなたたちに教えられることは何もないです。自分たちで頑張ってね」とちょっと褒めながらも放置する→ ますます支援を求めるようになる。だいたいこの方法でコントロールできるようになりました。
人はいくらでもいる中国、替えはいくらでもいます。失敗したら簡単にクビになってしまいますので相手も必死だったのだと思います。友人と「無間地獄を楽しめるようになったら中国ビジネスのプロだな」なんて話したりしていましたが、あっという間に中国人のビジネスモラルが格段に上がり、知らぬ間にそんな能力は不要になっていました。良いことなのですがスキルを身に付けた私としてはちょっと残念です。