学習というより修行、訓練です。旅に出るといろんなアクシデントに見舞われますが、それを独力で乗り越えることで達成感と中国語力への自信をつける方法です。ガイドや他人に依存する団体旅行ではダメ、あくまで一人旅です。中国旅行では(以前に比べてずいぶん減りはしましたが)愉快なアクシデントが次から次へと発生します。チケットの購入場所が分からない、行っても買い方が分からない、聞いても言葉が分からず(方言もあって)あるいは説明が不親切で分からない、間違ったチケットを握らされる、ホテルの予約が入っていない/勝手にキャンセルされている、地図や時刻表がデタラメ、頼んだ迎えが来ない、白タクにボラれる/タクシーに違う所に連れて行かれる等々、最初は憤っていてもあまりにたくさん発生するので最後には笑ってしまいます。私は他の国でも仕事をしてきましたが、こんなにデタラメな(だった?)のは中国だけです。そのデタラメをチャンスととらえて、持ち前の中国語力を駆使して解決していくことで自信を深めるのです。
私の体験談を一つ紹介します。東北の街長春から夜行列車で天津に行こうとしていた時のことです。チケットの出発駅の記述の横に何やら書いてあるので店員さんに確認したのですが「出発は長春駅」としか言いませんでした。当日の夜に長春駅に行って待合室で待っていましたが、いつまで経っても乗る便の表示が出ない。嫌な予感がして駅員さんに聞いてみると、工事中か何かの理由で長春駅は長春駅でも数キロ離れた場所にある臨時のプラットフォームから出るのだということでした。その時点で既に出発30分前、もうダメかと思いましたがとにかく急いで外に出て、たむろしていたバイクタクシーのおじさんをつかまえて行き先を告げました。「ちょっと無理すれば間に合うかもしれないがどうする?」と言うので「頼む!」と飛び乗りました。おじさんは雪が半分溶けた泥道を信号無視、歩道走行、私有地横断などの「ちょっと無理」なテクニックをフルに使って疾走して、タクシーで20分くらいかかるところを10分弱で着けてくれました。私はおじさんに「お釣りは要らない、ありがとう!」と札束を押し付けてプラットフォームに走っていきました。それがとんでもなく長い列車です。とりあえず近くの車両に乗り込んで列車内を移動しようとしましたがダメだと言われて、指定席の車両まで必死で走りました。そしてギリギリ間に合った、という話です。まだ中国語の学習を始めて一年くらいの頃だったのですが、駅員さんとのやり取り、バイクタクシーのおじさんとのやり取り等々で窮地を脱したことに達成感と自信を覚えました。すっかり気を良くした私は、「ベッドを代わってくれないか」とやって来た大学生くらいのお嬢さんたちの依頼にも中国語でスラスラ応じました。お嬢さんたちは私の発音に怪訝な顔をして「你是上海人吗?」と聞いてきました。発音が変だと思われたからですけど、「外国人か?」ではなく「上海人か?」と言われたのがなんとなく嬉しかったものです。また、夜行列車では途中停車駅に泊まった時にトイレに行こうとしたら「ダメダメ、外でしろ」と言われました。当時の寝台列車のトイレは下が開いていてブツを線路に落とす方式だったので、停車駅でみんながするとそこだけ山盛りになってしまうからです。また、これは私が悪いのですが、三段ベッドの一番上で焼酎を飲んでいて隙間から瓶を落っことしてしまって、冷や汗をかいたりしました。下のおじさんに直撃はしなかったようで、丁寧におわびを言って許してもらいました。
このような体験をして無事帰還すると、中国語学習者として一回り大きくなった気がしたものです。しかし、考えてみるとこれは度胸がついたというだけで、言語能力の向上には習得には大した役には立っていないですね。